コウノトリの声

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「今まで黙っていてごめん。お前に誤解されるようなことも……。あのビルの前で見たっていう彼はデザイナーなんだ。この指輪のデザインを依頼してた。俺が忙しかったのと、デザインが決められなかったことで何度も会うことになってしまったんだよ。それをお前は”浮気“だと誤解した。でも――驚かせたかったんだ」  壮登はまだ箱に残ったままのリングを摘み、俺に差し出す。 「今度は俺を繋ぎ止めて……。これはお前しか出来ないことだから」 「え……」 「体だけじゃなく、心も……繋がっていたい。一分、一秒たりとも離れたくない」  俺は震えが止まらない指で、それでも落とさないように細心の注意を払いながらリングを受け取ると、彼の左手の薬指にそっと嵌めた。  トクン……トクン……。  心臓の鼓動がうるさい。  発情期の時とは違う音――。  指輪が嵌った手を目の前にかざして彼は微笑んだ。  ゆっくりと体を起こして着ていたシャツを脱ぎ捨てると、俺の体の上に覆いかぶさってきた。 「な…っ!」 「これでお前が抱えていた不安、全部なくなっただろ?――大丈夫、きっと妊娠する」 「壮登……気づいていたの?」 「当たり前だろ?俺はお前の夫だぞ?妻の不安を知らずしていられるわけがないっ」 「あぁ……。信じられない。俺……なんて言ったらいいか…」  そう言った俺の唇に人差し指を押し当てて、壮登は欲情して長く伸びた牙を見せて微笑んだ。 「何も言わなくていいから――感じて。俺を……」  太腿に彼の灼熱が押し当てられるのを感じて、また体の芯が熱くなっていく。  蜜を溢れさせたペニスを扱かれながら、俺は顎をのけぞらせた。  きっと、大丈夫。俺は妊娠する――。  根拠のない自信。でもそれは何かを予感させるものがあった。  幸せを運んでくれるコウノトリの声が彼から与えられる快感の中で聞こえたような気がした。
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