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イケメンで代々続く旧家の次男坊、勤務する大手商社では二十六歳という若さでチームを任され、αとして生まれ持ったその能力を十分に発揮している。
俺たちは、別姓ではあるが法律上認められた夫夫(ふうふ)だ。しかし、結婚してもなお、彼の子種を欲しがる者はあとを断たず、男女問わず誘われることも多いようだ。
それでも彼はそんな者たちには目もくれず、三流企業に勤務する庶民の俺を愛してくれている。
「お前の前を阻むものは何もないはずだろ?早く子供でも作ってさぁ……」
トクン……。
心臓が大きく跳ねた。
その瞬間、急に息苦しさを覚えて俺は口元を覆った。
有能で優れた子種をもつαと子を成すための体をもつΩ。
血に惹かれあった二人が番い、交われば否応なしに子供は出来る。
国だって少子化を食い止めるために、それを前提にΩを保護し、特にαとΩの夫婦には子供が生まれる度に通常よりも多額の助成金を支払っている。
ただ――その制度にも例外はある。
ごく稀に、優れたαの子種であっても受精せずに子をなさないΩが存在する。
基本的に発情期の性交ではほぼ確実と言われているだけに、その助成金の需給資格は婚姻を結んでから一年以内とされている。
この際、期間内に一人でも妊娠・出産すれば、これ以降は無条件で支給が約束される。もちろん、子供が通う教育機関や病院、交通費までも含まれる好待遇だ。
ほぼ毎晩のように体を重ね、三ヶ月周期で訪れる発情期には、壮登は会社から推奨された休暇をとって俺を抱く。
それなのに――俺には妊娠の兆候がまったくないのだ。
「――まさか、お前っ」
「あ……うん。まだ……なんだ」
「えぇっ!最近、Ωに不妊が多いとは聞くけど、早めに病院に行って、専門医に相談した方がいいぞ!俺の兄貴のところもギリギリだったし。β同士だからお前たちより支給額は少ないとはいえ、全く貰えないよりはマシだからな」
そう言えば少し前に陽介がその話をしていたことを思い出した。彼の兄夫婦も奥さんの不妊症に悩んでいた。βである彼女の不妊は陽介の兄にとっても切実な問題で、助成金云々というよりも“子供が欲しい”と望む気持ちの方が大きかった。しかも彼は長男であり、家族からの期待もかなりのものだったと聞く。
そんな彼らに待望の子供が出来たのは、助成金支給申請期限である結婚後一年を間近に控えた頃だった。
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