心の声

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 自分では止めることが出来なくなってしまった涙は枕をしとどに濡らしていく。  こんなに愛してくれる壮登を無意識に追い詰めている自分。  きっと、周囲の心無い人たちからは“まだ子供が出来ないのか”と言われ続けているに違いない。  古くから代々続く旧家のカリスマ性を秘めた有能な種を受け継ぐ子供への期待は、本人たちよりも周りの人たちの方が大きいのだろう。 きっと壮登の事だから、余裕ありげに笑顔で切り返し、その場を凌いでいる事だろう。  しかし、心の中では口には出せない俺への想いが渦巻いている。  体に異常もなく、それでも子が成せないというのはもう、神のみぞ知る世界の範疇だ。  医師でもどうにもならない事を、俺たちが必死に足掻いたところで無理なモノは無理なのだ。  ぴったりと触れあっているはずの体がやけに遠くに感じて、俺は声を押し殺して泣き続けた。  精神的な要因――。  全くないと言えば?になる。病院では医師の手前、ああ言ってはみたものの、本当は気になっている事が一つだけある。  それはここ数ヶ月、壮登の帰宅時間が遅い事だ。会社を出る前には必ず連絡を寄こす彼なのだが、帰宅予定時間を過ぎても帰ってこない事があり、その間は電話も通じない。  最初の内は急な接待や打ち合わせが入ったのだと思っていた。しかし、それが何ヶ月も続くというのはおかしい。  それに加えて、彼のスーツの上着に香水の香りが微かに残っていることに気付いた。  スパイスの効いたその香りは壮登のものでも俺のものでもない、ただ男性用であるということは間違いない。  αとΩの番は生涯に一人だけという”運命の出会い”と言われている。  俺と壮登もそうだった――と思いたい。  彼が俺の知らないところで浮気をしているとは思えないが、やっぱりいろいろと勘繰ってしまう。  誰もが認める知的な容姿、誰に対しても変わることのない態度と言葉。彼の存在は完璧と言えるものなのだ。  だからこそ、それを欲しいと思う者は少なくない。  些細な疑念が時間を追うごとに次第に大きくなっていく。  気にしないようにと思えば思うほど、悪い方へと考えが動いていく。  優しい言葉も、キスも愛撫も、俺だけのものではないと思うだけで嫉妬し、悲しみが生まれる。 (俺の何が……足りない?あなたを満たせない理由は……なに?)
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