病院へ

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数日後――。 俺は壮登と共に不妊治療の権威とも言われる小岩(こいわ)医師のいるY総合病院にいた。 不妊治療は他の診療科と異なり、デリケートな問題でもあるため、一般の診察室とは別の棟に設けられている。 待合室も明るく解放的で、壁一面ガラス張りの窓からは四季折々の花々が楽しめる中庭が見える。 不妊の原因はお互いの病気や体質・遺伝にもよるが、心的要因もあるため、出来るだけ不安を与えないような工夫がなされているのだろう。 先程からずっと俺の手を握ったままの壮登は、心なしか緊張しているようにも見える。 実年齢よりも幾分若く見える俺たちを、周りの人たちはどう思っているのだろうか。 待合室には予想以上の数のカップルがいた。 男女だけでなく同性カップルの姿も見える。少し驚いたような顔で俺を見た壮登はボソリと呟いた。 「驚いたな……。こんなに同じ悩みを抱えてる人たちがいるのか」 「陽介から話は聞いてたけど、正直……俺も驚いてる」  まさか、自分たちがこの場に訪れることになるとは思ってもみなかった。  結婚して、壮登の子を妊娠して……今頃は大きなお腹を撫でながら、ベビー用品のカタログなどを眺めていたはずだった。 早々に受付を済ませ、ソファに座ってもなお彼は俺の手を離すことはなかった。 嬉しくはあったが、照れ臭いようなくすぐったいような気がして、トイレに行くと言ってやんわりと離れた。 ヒーリング音楽がBGMとして流れてはいるが、ここで待つ人たちの心中は穏やかではないだろう。 事実、俺もそうだった。 もしも、何らかの原因で子供が生めない体だとしたら、何より待ち望んでいる壮登に申し訳が立たない。 「大丈夫だ」と言ってくれはするが、彼だって不安であることは間違いない。  俺ではなく彼に問題がある可能性も捨てきれないからだ。 受付時に配布された整理番号がカウンター上部に設置された液晶パネルに表示される。 受診票に記された番号と照らし合わせて、俺たちはゆっくり立ち上がると診察室へと入った。 不妊治療専門医である小岩医師は気さくで人当たりのいい人だった。 決して相手に不快感や警戒心を与えることなく、妊娠のメカニズムから不妊要因の説明をしてくれた。それを理解したあとで、俺と壮登は別行動で血液検査や生殖機能の検査をした。
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