心の声

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心の声

その夜、壮登は俺を抱くことはなかった。 ただ、ピタリと体を寄せ合ったままベッドに横になっていると、後ろから力強く抱きしめられて反射的に体を強張らせてしまった。 「蓮……。一番不安なのはお前の方だって分かってる。心配はいらないよ」 「――うん。なんだか、ごめん。俺……」 「何も言わなくていいから。体には何の異常もないって事が分かっただけでもホッとしてる」  ふぅっとゆっくり息を吐き出しながら肩の力を抜いていく。  骨ばった壮登の指がTシャツの上から腰骨に沿って撫でる。  そのゆったりとした動きにさえ、俺の体は敏感に反応してしまっていた。 「今夜はゆっくり休もう……。毎晩、お前に負担をかけていたのかもしれない」 「そ、そんなことないっ。壮登は優しいし……」 「ただ闇雲にセックスすればいいってもんじゃないだろ?小岩先生の言う通り、タイミングを見計らってした方がいいのかもしれない」  わずかに声が掠れているのは、壮登が眠くなり始めた時の特徴だ。  慣れない病院での検査で疲れたのだろう。検査結果を待つ間、ずっと俺を気遣ってくれていたことも一因だ。  どんな時でも俺を最優先に考えてくれる彼の優しさが、時に自分を苦しめている事に気付いてはいたが、絶対に口には出すまいと心に決めていた。  誰もが羨む理想的な夫夫……。  その関係を一瞬で壊すのは簡単なことだと分かっているから。 「――おやすみ、壮登」 「うん……」  Tシャツの薄い生地越し、背中に彼の唇の熱を感じて俺はそっと目を閉じた。  それでも眠りは浅く、何度も目を覚ました。  どのくらい経った頃だろう。背後で規則正しく聞こえていた壮登の呼吸が不意に乱れて、俺はハッと息を呑んで目を見開いた。  体調でも悪くなったのかと不安を抱いたまま耳を澄ます。  そして、苦しげに途切れ途切れの息を吐き出しながら呟く彼の声に全身が震えた。 「俺の……何が足りない?満たされない理由……は、なに?」  それが寝言だと分かったのは、すぐに正常に戻った呼吸音だった。  規則正しく繰り返される壮登の息遣いをすぐそばで聞きながら、俺は細く息を吐き出した。  でも――一度強張った体はなかなか元には戻らなかった。  シーツを掴む指先が震え、知らずのうちに涙が溢れ出していた。
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