2. 原初の森、第二の儀式 ※

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 ◇◇◇ 「う、う――――ッ」  悲痛な叫び声が森に響いていた。口に巻き付けられた蔓を超えて漏れるそれは、想像を絶する痛みによるものに他ならない。  一人の、見目麗しい青年が、無数の蔓によって大木に吊るされた格好で苦痛に顔を歪ませている。 「んッ、ぐ……、ンン――――!」  大きく開かされた足の間に、蔓が群がっている。それは青年の後孔にこぞって頭を入れ、慎重に奥へ奥へと進みながら、腹に宿った「大切なもの」を引っ張り出そうとしていた。体内を、内臓を蹂躙される痛みに、青年はきつく閉じた目から涙を零していた。喉が裂けんばかりの悲鳴は、猿轡のように噛ませた上から幾重にも巻き付く蔓にほとんどが吸収される。しかし、それでも、見守る竜たちの耳には青年が味わう苦痛が如実に伝わった。  祭壇の上。大木の下。行われているのは「第二の儀式」――出産の儀である。  それを、数十頭の竜が見守っていた。最前列には、あの若い竜、ロワがいる。彼は誰よりも泣きそうな顔で青年を見上げていた。  彼は一年前、この青年と性行為をした。それが「第一の儀式」だった。ロワはこの儀式に選ばれ、家族や仲間内、さらには見ず知らずの竜からも立派な竜だ、英雄だともてはやされた。しかし、ロワ自身は、あれは合意の無い行為、強姦だったという思いが捨てられない。人間の世界から半ば攫ってきた何も知らない青年を、特別な術で意識に蓋をかけた状態の彼を、目的はどうであれ「犯した」のである。見るからに細い彼人間が、巨大な竜の性器を簡単に受け入れられるわけもなく、その時は白い祭壇に赤が散った。たいへんな痛みだったと想像できる。それ以上の痛みを、青年は今、ここで。  ロワが願うことはただ一つ。  青年が、生きてこの儀式を乗り越えてくれることだけだった。 「ッは、はァ、あ――ッ」  悲鳴は続く。その時、誰かが小さな歓声を上げた。  ロワもその目で確認する。青年の後孔から、何か白いものが顔を覗かせていた。誰もがその正体を分かっていた。  卵だ。  青年の表情はますます激痛に苛まれたものになる。閉じていた青の瞳を大きく見開き、一際大きな声で苦痛を示した。ロワは無意識に両手を握りしめる。目だけは青年から逸らすことはなかった。最後まで見届ける義務があるのだと、そう自分に言い聞かせながら。
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