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「――――ッ」
最後の、長い絶叫。
青年の瞳から零れ落ちた涙が祭壇を打った時。
卵はその姿を衆目の前に現した。
「産まれたぞ!」
「〝継ぎの竜〟だ!」
「儀式は成功だ!」
見守っていた竜たちは弾んだ声で口々に言った。しかしロワは卵よりも青年を見ていた。卵を体外へ引きずり出された瞬間に、糸が切れるように脱力した彼を。
ぴくりとも動かない。
「……っ」
「お、おいロワ、まだ駄目だ! まだ儀式は終わってない!」
「しかしあの人間が……!」
「すぐに降ろされるさ、卵を〝揺り篭〟に収めるまで待つんだ」
近くにいた竜に止められ、ロワはくしゃりと顔を歪ませる。しかしどうしようもなく、言われたとおりに儀式の終わりを待った。
祭壇の上に降ろされた卵は、そのまま蔓に抱えられ、背後の大木へと取り込まれていった。
大木、「揺り篭」。「継ぎの竜」が孵るまでの床である。
卵がその姿を「揺り篭」に収め、吊るされていた青年が祭壇まで降ろされる。彼の傍には小さな祭司たちが駆け寄った。蔓をほどき、その肢体を横たえ、何事かを唱える。青年は動かなかった。
祭司たちが立ち上がり、手に持った大きな鈴を何度か鳴らす。
それが儀式の終わりの合図だった。
ロワは弾かれたように祭壇に上がる。
「そ、その人間は、どうだ、無事か……っ」
その勢いに、祭司たちは驚いて身を避けた。そして青年に顔を寄せておろおろとするロワに向かって、「ご安心を」と声をかける。
「驚くことに、まだ生きております」
「ほ、本当か!」
「はい。この儀式を耐え抜くとは信じられませんが、確かにまだ、息を」
ロワは注意深く青年を見下ろした。すると、僅かに胸が上下していることに気が付いた。
安堵の、長い溜め息を吐く。
「そうか、よかった……」
「ロワ」
次に祭壇に上がって来たのは、長老竜。
「分かっていると思うが、儀式はあと一つ残っている。その青年はまたこの祭壇に繋がれ、卵が孵るまで眠る。……概して十年ほどだろう」
彼の言葉はどこまでも事務的だった。しかし、その声音には、以前よりも幾分か感情がこもっている。どこか呆れたような、同情するような。
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