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ロワは小さく頷いた。
「分かっています。その、十年の間に死ぬことはありませんよね? 眠るだけなのだから……」
「さてな。この第二の儀式を生き残った人間を儂は知らん。だが、まあ」
長老竜は少しだけ言い淀み、
「……大丈夫だと言ってやらねば、お前の気は静まるまい。今日までは一年だったが、またこれから十年、お前はここに通い詰める気か?」
「もちろん。それが私の責任だと思っています」
第一の儀式から今日まで、一年間。
ロワは時間が出来ればこの祭壇に足を運び、青年の様子を確かめていた。ちゃんと生きているか、眠っているか。鼻を寄せ、その微かな匂いを覚えた。腹を優しく舌で撫で、心の中で謝った。「どうせ儀式で死ぬだろうに、無駄なことを」と揶揄する竜もいたが、ロワは気にしなかった。
長老竜はそれを見てきたのだ。
少しの情も移るというもの。
「止めはせんが、な。それが次に目を覚ました時、……どうするか、十年で決めるがいい」
次に目を覚ました時。
竜たちが待望する〝継ぎの竜〟は生まれ、儀式は完全に終了する。その時に。
息のある人間を、どう扱うか。
前例は酷く少ない。ロワはしっかりと頷いた。そしてもう一度だけ振り返り、青年の腹に静かに自分の鼻先を押し当てた。
「生きていてくれてありがとう、名も知らぬ人間よ……」
それは疑いようもなく、愛を込めたキスだった。
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