3. 目覚め

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3. 目覚め

 十年。  その間に変わったことと言えば、ロワの身体が一回りは大きくなり、よく成熟した大人になったこと。竜の世界で確固たる地位を築いたこと。 変わらないことは、森の様子、青年の身体。  祭壇の上の時間は止まっていた。青年は歳をとることもなく、ただ十年の間、そこで眠り続けた。穏やかな木漏れ日を受け、変わらない美しさを、ロワは十年、見守った。  そして、その日はやって来る。  祭壇には第二の儀式の時のように、大勢の竜たちが集まった。  祭壇の向こうの大木「揺り篭」は、乾いた樹皮を波打たせて脈動する。風もないのに枝が揺れ、周囲の木々まで騒めいて、その瞬間が近いことを知らせている。  竜と祭司たちが見守る中で、横たえられていた青年はまた蔓によって「揺り篭」に吊るされた。今度は無理な姿勢ではなく、柔らかな椅子に身を預けるように。美しい寝顔は苦痛がないことを示している。  生まれるぞ、と誰かが呟く。  その言葉通りに、「揺り篭」はゆっくりとその樹皮を零しながら幹に大穴を開け、その中から、あの日青年から取り出された卵が現れる。ぽっかりと開いたその穴の中に鎮座する、輝くような、神聖な白。  全員が見守る中で、殻が、破られる。
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