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静まり返る竜たちの耳には小気味の良い音が届いた。まず見えたのはロワと同じ、黄金色の鼻先だった。自らの幼い頭と口で殻を破り、懸命にもがいて、身体を外気に晒す。鼻で割った殻を押し上げ、薄く開いた目、粘膜の纏わりついた鱗、あまりにも未成熟ながらも確かに形を成した翼が、徐々に世界に登場する。
そして転げるように卵から出て来た黄金色の赤ん坊は、まるで自分の役目を分かっているかのように、きゅーいと甲高い声で鳴いた。
歓声が上がった。誰もがその生命の誕生を祝福した。もちろん、ロワも。
そしてロワの望みは、もう一つ。
「えっ」
「なんで」
「危ない!」
喜びの声を上げていた竜たちが一転して焦り始める。ロワだけが静かにその様子を眺めていた。
青年が蔓に導かれ、生まれたばかりの赤ん坊がいる木のウロへ運ばれたのだ。人間が、大切な「継ぎの竜」の隣に降ろされる。竜たちは半狂乱になって「子どもから人間を離せ」と叫んだが、これはロワの願いに他ならなかった。儀式の前に祭司に頼み込み、赤ん坊が生まれたらすぐに青年を同じ場所へ運ぶようにしてもらったのだ。
隣に運んだあとは、今までずっと封印してきた青年の意識も、元通りにするように、と。
多くの竜が騒ぐ中で、青年はゆっくりと意識を取り戻した。
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