3. 目覚め

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 ◇◇◇  長い夢を見ていたような気がする。  暗い空間を、終わりなく浮遊する夢。怖くはなかった。その暗闇は、例えるなら夜空のようで、張り詰めた精神を緩ませる無音と温度が、俺の身体を心地よく包んでくれたから。  その色が、変わる時がある。  黄金色。  眩しいけれど、優しい。よく晴れた日の正午の風、干したての布団、太陽の光のような。  愛おしそうに俺の腹を撫でては、去っていく。ずっとそこに留まる日もある。その時にだけ聞こえるくぐもった音は、何かを語りかけてくるような。俺に分かるのは色だけだけど、確かに、俺の隣には何かがいた。  それは、温かい気持ちだった。  瞼を持ち上げる。本当に久しぶりの感覚だった。  音、遠くで何かを叫ぶ声。  におい、肺いっぱいに入り込む草木の香り。  温度、少し肌寒い。  思考はまだ少し膜が張ったような。  色。  暗がりと、黄金色。 「……?」  目を開けた俺の前には、なんとも不思議な生物がいた。  丸みを帯びた身体。二つの瞳、ちょこんと突き出た鼻、大きく開く口。 鱗と、小さな翼。三角形の耳に、ただの突起のようにも思える二つの頭部のでっぱりは角、だろうか。太く短い尻尾がぷるぷる震えていた。散らかった卵の殻。院の弟たちによく読んでやっていた絵本の中に、出てくる……。  竜だ。  どこからどう見ても、竜。置物や人形の類でないことはその目を見ればわかる。小さな生命。大きめのウサギくらい。黄金色の大きな瞳が、うるうると輝きながらじっと俺を見つめていた。その幼い……、恐らくは生まれたばかりの身体には、ところどころ膜のようなものが付いている。そのせいで小さいながらも立派な羽が満足に伸ばせていないようだった。  俺はほとんど無意識に、その膜へ手を伸ばす。幼い竜は俺の指を興味津々といった目で見つめるだけ。自分の背後へと向かう手を、首を逸らして見上げるものだから、後ろに転んでしまいそうだった。においを嗅ぐようにひくひくと動く鼻先が俺の腕に触れる。その少し濡れた感触と鼻息が、この竜が生きていることを俺に主張する。
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