4. 「ママ」と「パパ」

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 そう訊いた。三匹はまた頭を下げる。 「左様。あなたさまがお産みになり、また今お抱きになられる生命こそ」 「この〝原初の森〟の永遠なる時の象徴」 「尊い生命。義務と共に生まれし特別な千年竜」  腕の中。黄金色の子竜は俺を見上げてふんふんと鼻を鳴らしていた。きらきら輝く瞳と視線を合わせると、また嬉しそうに、動くようになったばかりの翼を揺らす。 「つぎ、の、りゅー!」  生まれたばかりなのにしっかりと言葉を話すこの子は、どうやら自分が何者かをよく承知して生まれてきたらしい。そして、誇らしげ。  俺だけが分からなくて、この子竜と、蛇人間たちを見比べる。すると足元がずしんと揺れて、隣にさっきの巨大な黄金竜がやって来た。  地に降りて見ると、ますます大きい。三、いや四メートルはある。見上げると首が痛い。絵本の中で言えば、お姫様を攫って城に飛んでいってしまう生き物だ。あの翼で空を飛んで、火を噴いて、巨大な爪で敵を裂く……。ゆっくりと開いた口には牙があり、真っ赤な舌があり。  屈強そうな顎が動く。 『――――』  相変わらず、言葉は分からない。  しかし俺の腕の中の子竜は、その、恐らくは親竜に向かって身を乗り出す。 「ぱ、ぱー! ぼく、うまれた!」 『――――』 「うん! まま、あったかい!」  会話が成立している。不思議と、子竜が何を言っているかは俺にも分かるのだ。それなのに、親竜の方はどう頑張っても呻き声にしか聞こえず、何かしらの言語体系を掴みとることさえ不可能だった。  巨大な竜が、緩慢な動作で腕をこちらに伸ばしてくる。身体に見合った大きさの爪が迫ってくるのは恐怖以外の何物でもなかった。後退ると、竜はぴたりと腕を止め、小さく首を傾げる。それはとても人間らしい……、とは言わないが、少なくとも知性のある生き物の動作で、危害を加えるつもりはなかったのだと分かると恐怖心は少しだけ和らいだ。  同時に、この子竜を抱きたいのかと気付く。  俺は子竜をそっと腕から降ろしてやった。子竜は不思議そうな顔で俺を見上げたが、行っておいで、と言うとすぐに笑顔になって親竜の方へ駆けていく。あまりにもおぼつかない足取りで、身体の使い方がまだ完璧でないために、意味もなくぱたぱたと翼を動かしながら。
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