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親竜がその子を抱き上げる。顔の前まで持っていき、頬どうしを擦り合わせる様子は、紛れもなく家族だった。
「…………」
温かな。
あまり触れてこなかった温かさだ。
いつの間にか俺の足元にはあの三匹が寄って来ていた。
「竜をお産みになった人間さま」
「我らが使命、我らが儀式を果たされたお方」
「名は何と申されますか」
名前を訊かれるということは、俺の背後で喚きたてている竜たちに今すぐ八つ裂きにされて食べられる、ということはないのだろう。
異常な状況が逆に俺の心を落ち着けていく。
「ノエ。……ノエ・アントワーヌ」
アントワーヌは孤児院の名。俺の母であり父であり、俺が必要とされる唯一の場所の名前。
口にすると、何故だか胸に言いようのない懐かしさが広がった。それと共に、この場所に対する疑問がまた頭をもたげてしまう。俺は、確か孤児院の自分のベッドで、眠りについたはずだった。窓の向こうに見た、惑わされるほどに綺麗な月を、覚えている。
ここはどこ。俺は、どうしてここに。
「ノエさま。状況がお分かりになられるか」
「……いいえ」
「然り。それではご案内申し上げる」
「案内?」
「然り。――〝継ぎの竜〟さまの元へ」
三匹の口から、赤く細い舌がちろりと覗いた。
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