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祭司たちは腕を組んで跪いた。黄金色の竜も俺と子竜を降ろし、頭を低く、地に這わす。ここに来るまでに「〝継ぎの竜〟さまの前でその格好はまずい」と祭司たちに白いローブを着せられた俺は、どうしたものかと逡巡する。身体の大きさもそうだが、この空間の静謐で神聖な空気は、何処となく教会にも似たものだ。横たわる、というよりも、鎮座していると表現したほうが良さそうな目の前の竜が、何か特別な存在であるということは俺にも分かった。考えている間に子竜が継ぎの竜に向かって飛び出そうとするので、落ちては危ないと思って慌てて抱きなおす。
子竜は俺を振り返り、どうしても傍まで行きたいのだ、と。言われてしまっては行かないわけにもいかない。継ぎの竜は俺たちの存在に気付いていないかのように目を閉じたままだった。
しかし、俺が数歩近付くと、瞼がゆっくりと持ち上げられる。
瞳の色は、新緑。
森を込めた宝石のように、それは美しい瞳だった。
『――産まれたか』
裂け目のような口は、ほんの僅かに隙間が空いただけ。そこから漏れ出た声は地鳴りのようで、それなのに俺は言葉の意味をはっきりと理解した。
その姿。声、瞳の輝き。圧倒されて、声を失う。
子竜は変わらずに元気だった。
「うまれた! つぎ、の、りゅー!」
『そうか、善い……。善い竜だ。目で分かる……』
口元さえほとんど動かず、表情などありそうにないのに、俺は彼が笑ったように感じた。
もう一歩、近付いてみる。
『母体が、生き残るとは……。珍しいこともあったものよ……。名は何と申す』
「ノエ、です」
『そうか……。ノエ、生き残った以上、お前には話さねばならぬ……。次なる〝継ぎの竜〟は〝揺り篭〟の中で聞いたであろう。我が命、我が使命、そしてこの世界の理……』
深い、深い声。
俺は自然とその場に腰を下ろした。子竜も大人しく俺の足の上に座って、視線を継ぎの竜に向けている。小さな手が、幼く柔らかい爪が、俺の腕をきゅっと掴んでいる様子が、こんな状況だというのに酷く愛らしく見えた。
そして、竜は語り始めた。
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