5. 継ぎの竜

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 俺は竜から全ての話を聞き終えた。ここが竜の国であり、人間の世界ではないことも理解した。境界を渡るための、条件も。  子竜の耳を、そっと塞ぐ。 「では、俺は……、死んだのですね」  今までの話を理解するならば、受け入れるならば。  俺は、もう。 『……その通りだ、聡明な人間よ。悲しみもあろうが……』 「いいえ。薄々は、分かっていたことでしたから。あのまま同じ生活を続けていれば、いつか限界がくるのだろうなと……。それが、思っていたより、少し早かっただけですから……」 『死は悲しむべきものだ。恥ずべきものでも、呑みくだすものでもなく』  子竜が俺の手の中でもぞもぞと動いている。だけど、こんな話は聞かせる価値もない。 『自分の最期が知りたいか……?』 「……過労死でしょう。俺のことよりも、院の弟や妹たちがどうなったのか……」 『うむ。お前が死んだ翌日に、人間が大勢来たようだな……。発見は早かった。お前に不貞を働いていたあの男は、お前の死によって悪事が白日の下に晒された。然るべき罰を受けるだろう……。院は暫く町で管理していくという話になったようだ。お前の遺体を見つけた者たちが支援を募った。経営に困ることは無さそうだ……。気休め程度かもしれぬが、お前の死は無駄ではなかった……』  そんな詳細まで分かるとは思っていなかったために、俺は驚いた。死んでしまった時の様子ならともかく、院長先生のことや、その後の院の様子まで分かっているなんて。  良かった。院の弟たちが暮らしていけるなら、それ以上に望むことはない。チャリティー活動に協力してくれた人たちには本当に感謝をしなければ。何から何まで世話になった。あの子たちがどうか、どうかこれから、幸せな道を歩んでいけますように……。 「……まま、ないてる、の?」  子竜が俺を見上げていた。その額にぽたりと水滴が落ちる。自分の涙だと気付くまでに少し時間がかかった。もう何年も流した覚えのない涙だった。
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