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親切なククから一通り話を聞いた後、翼の音とともにロワが帰ってきた。
その腕の中には、エメがいる。
「ままー! ただいま!」
『――――』
「あのねぇ、いいおうち、みつけたよ! って、ぱぱがいってる!」
ロワの腕からぴょんと飛び降りたエメは、元気いっぱいに俺に突進してきた。抱き上げるときゅいと鳴く。
二頭……、二人は、この森で暮らせる場所を探しに行っていたのだ。俺たちは、暫くはこの森で暮らすことになる。エメは今の「継ぎの竜」の元でいろいろと学ぶ必要があり、ここ「原初の森」の空気、におい、気、その他いろいろを身体で感じて覚えなければならないらしい。ここを故郷にするために。
ククたちの社は木を組んで建てられた、広さはあるがククたちの背丈に合わせて天井が低い館だ。エメには広く、俺は天井に頭が当たるくらい、ロワは入る隙もないので、新しく広い場所を見つけなければならなかったのだ。
ちなみに、ロワのことはククがいろいろと教えてくれたが、竜の国の王都のエリート官僚だそうだ。外務省のようなところの重役。俺がエメを孕まされてから眠っていた十年の内に、目覚ましいほどの出世をしたらしい。今は四十歳の後半戦。――人間と竜の成長速度自体はある時期までは変わりがなく、大きく異なる点はその寿命。竜は五十歳を過ぎてから、成長や老いといった身体の変化が極端に遅くなる。平均寿命は五百年ほどだが個体差が激しく、千年を生きる者も稀にいる。俺が見ただけでは竜の年齢などは分からないのだが、ロワは彼の職場ではまだまだ若い竜。子育てには、少し年を取っている……。
そして「継ぎの竜」として生まれてきた竜たちは、必ず千年の時を生き抜くのだと言う。途方もない時間だ。
ロワは朝から夕方まで王都で仕事がある。なるべく早く帰ってくるつもりらしいが、少なくとも陽が沈むまでは、俺とエメがこの森に残される。といっても本当に二人きりというわけではなく、ククが世話を焼いてくれるし、もう二人の祭司、サンとヌイもいる。
どうなるかは分からないが、口にするものにさえ気を付けていれば、あっさり死ぬことはないだろう。
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