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◇◇◇
陽が沈む前に、私たちは家の環境を整えた。
ノエは初めの内は若干引き攣った表情でいたが、流石にあの儀式を生き抜いただけあって肝が据わっているというか、終わりには強かに家作りに取り組んでいた。
私はその様子を、大きな身体が邪魔にならないように外で見ていた。
……やはり、美しい。
祭壇に繋がれて眠っている時から思っていた。この青年は種族の違いなど飛び越えてしまうほどに美しい容姿を持っている。私が人間を見たのは初めてだったが、人間界がこのように整った顔立ちの者がごろごろいるような世界だということはあるまい。その上、「継ぎの竜」を腹に宿せるほどの心根の正しさ、儀式に耐え得る心身の強さ。
よく考えずとも、凄い妻をもらったものだと思う。
十一年通い続けた甲斐があったのか、ノエは私が急に動くと大きく身体を跳ねさせて驚くが、様子を窺いつつゆっくりと近付けば怯えた様子は見せなかった。十一年の癖で、その腹に鼻を寄せたくなる。一通り家作りが終わった頃合いを見計らって、私はそっとノエに顔を寄せた。
ノエはじっと私の動きを見ている。鼻先を腹に押し当ててみても、ノエは何も言わなかった。
「……クク、ノエは私を怖がってはいないか……?」
「ノエさま、ロワさまが怖いですか?」
『――――』
「怖くはないそうですが、意味が分からないそうです」
こんな回りくどい方法でしか意思疎通の手段がないのが、非常に歯痒い。だが怖がられてはないようで、一安心だ。私が十一年の間ノエを見続けていたのに対して、ノエにとってはまだ私の顔を見てから一日程度しか経っていないのだ。焦りは禁物。これから、これから。
これから、この美しい青年と暮らす……愛くるしい我が子と共に……。
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