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「……分かっています、長老。しかし、やり遂げるのは、この人間でしょう……」
若い竜、ロワは最後にもう一度だけ青年へ鼻先を寄せると、赤い舌でその腹を優しく撫でた。決して圧迫しないよう、慎重に力加減をして。
青年はその行為を、何の感情も籠らない瞳に映す。ロワには、それが悲しかった。
しかしまともな精神活動を行っていれば、この青年は発狂して、最悪の場合は死んでしまうだろう。肉体活動においてもそうだ。
受け入れられる生物がいるだろうか。
――巨大な身の丈の異種族に犯され、その子を孕み、産み落とす運命を。
「術をかけなおすよう祭司たちに言っておこう、ロワ。母体が死んでも第二の儀式は執り行えるが、生きているに越したことはない。肉体も精神も活動を鈍くしておかねば、人間は脆いからな……」
長老の言葉に、ロワは逆らわなかった。彼らは二言三言会話をした後、やがてその場から立ち去った。
残された青年はその背を目で追いながら、しかし、何の感情も抱くことはできなかった。
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