2. 原初の森、第二の儀式 ※

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2. 原初の森、第二の儀式 ※

 人間の隣には竜が棲む。  忘れ去られた物語は、その存在を留めたまま、数千年。血を脈々と受け継ぎ守りながら、そこに生きている。  人間はとかく自分たち以外の存在を遠く彼方へ追いやってしまう。その目の届かぬところで何が生きようとも、意識の範囲外。穏やかに暮らして行くための知恵だと言う。しかし彼らの知らないところには、やはりまた生命がある。二足歩行の獣、文明を持つ鳥、未知なる海底都市、そして――人間の隣には、竜。  接する場所を、竜たちの言葉で「原初の森」と呼ぶ。  森を形成する木々たちは、太古を生きた竜たちの魂。それからまだ人間と竜が顔を合わせていた遥か昔に、竜と共に生きることを選んだ人間たちの魂である。芽吹く生命は、それが地上で過ごした時間の何倍もかけて、現在を見守る大木になる。  そこは人間と竜の世界の唯一の接点。しかし人間の世界は歳月を重ねるごとに離れていく。今、竜の世界の爪が掛かるのは、人間の世界の一部。  彼らの、死の部分。  死の縁に立つ人間の魂だけが、この森へ渡ることができる。肉体と魂が完全に離れた瞬間に境界を渡れば、完全なる死から逃れられる。そして魂が覚えている身体を再構築し、また、息をする。  それは千年に一度、竜たちの手で、意図的に行われる。  「継ぎの竜」を生むために――。
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