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「トシ、さん……」
「なんでっ……なんであんたがここに!?」
「邪魔して、ごめんなさい。でも、私、これが仕事だから」
江戸で一度会って、それ以来幾度も影を追い続けて来た。
相変わらず艶のある綺麗な黒髪に白い肌。いや、今は白いを通り越して青白くなっている。
肩から胸にかけての一太刀の傷から止めどなく流れる鮮血。
「トシさん、池田屋行くんでしょう」
「喋んな! 今、医者を」
ぎゅっと俺の羽織を握る手は弱々しくて簡単に払えるのに、そうすることが出来ない。
「そんなことより、池田屋に。まだたくさんの人が残ってるから。きっと今ならまだ、手柄あげるのに間に合うから」
「なんであんたがそんなこと言うんだよっ! なあ、あんたは敵なのか?」
「私の役目は、あの人の代わりに命を捨てること。敵でも味方でもないよ」
「あいつは……あんたを見捨てて」
「そういう扱いなの」
ニコリと微笑む顔に、覇気はない。
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