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「トシさん。私にかまけてないで、早く行かなきゃ」
わかっている。この女がもう助からないことは。
京に来て人を斬る自分の仕事に後悔したのは、初めてだ。
「トシさんが、京に来てから頑張ってきたの知ってるわ。悪く言われようとも、真っ直ぐに生きてきたんだから、これからも……そうやって生きて」
「俺は、あんたに……あんたに……」
「私、トシさんに会えて良かったなぁ」
「ずっと、あんたを探してた」
「トシさんみたいに真っ直ぐな目をした人に、私弱いの。私もずっと、会いたかった」
なんで死ぬ間際だと言うのにこんなにも笑顔でいられるのだろう。
今まで、こんなに綺麗な笑顔を俺は見たことがない。
「これからも自分を曲げず、そのままのトシさんで生きて。でも、無理しすぎて早死にしちゃだめよ」
ヒュー……ドンッ……。
花火が上がる。辺り一面が一瞬、赤い光で染まる。
「綺麗だなぁ」
そう言って俺の顔に向けて手を伸ばす。だけどそれは、俺に触れる前に地に落ちた。
「まだなんも、あんたに伝えてねぇよ」
喧しい花火の音だけが俺の耳に残った。
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