14人が本棚に入れています
本棚に追加
「土方さん。起きてますか?」
声を掛けられてハッとする。
慌てて自分の身なりを確認すると、あの浅葱色の羽織はもうない。
気付いたら寝ていて、随分懐かしいことを思い出していたみたいだ。
そうだ。俺は今、函館にいるんだ。新撰組は実質もうなくなった。
ドォンッーー。
「大砲の音、響きますね。嫌な音だ」
「ああ。本当に……喧しい」
新政府と旧幕府の戦いは函館まで追い詰められていて、俺達は函館の五稜郭に陣を置いている。
ここでの戦いもいつまで持つかはわからない。
俺はただ、与えられた仕事を全うするだけだ。ここまで来て、折れるわけにはいかない。
にしても池田屋か。嫌な事、思い出したな。
これから戦に出るというのに、気が滅入ってしまう。
新撰組はもうない。死んだ者もいれば、抜けた者も。
近藤さんだってーー死んでしまった。
だったら副長の俺が代わりを務めるしかない。
最期の最期まで、俺だけは諦めるわけにはいかないんだ。
「土方さん、そろそろですよ」
「わかった」
未だに慣れない洋装に身を包んで、腰には刀を差して、俺達は戦いの地へと赴く。
最初のコメントを投稿しよう!