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「トシさん」
「あんた、なんでここに……」
池田屋の時に死んだはずの女が、何故俺の横にいるのか。
答えは一瞬で出た。
「そうか。俺も死ぬんだな」
「トシさん、お疲れ様。やっぱり最期まで、真っ直ぐに生きましたね。周りが降伏していく中、トシさんだけは折れなかった」
「当たり前だ。俺まで折れちまったら、新撰組のやってきたことが間違いだったってなるだろ。折れたら、負けを認めたのと一緒だ」
「意地っ張り」
ドォンッーー。
「ちっ。喧しい。あんたとはつくづく、喧しい日に縁があるみたいだ」
「花火が結ぶ縁ですね」
「ふっ。今日は上がってねぇぞ」
そう言って女の顔を見れば、俺が死ぬってのに笑顔で。
「こんなところに綺麗な花火、上がってたな」
我ながらカッコつけた言葉だ、と思う。
女の顔に手を添えれば、死んでいるはずなのに温もりが。
「あったけぇな」
「トシさんも、あったかい。漸く貴方に触れられた」
「……そうだ、あんたに聞きたいことがあったんだ」
ずっと、聞けなかった。死ぬ前に一度だけでも呼びたい。
「あんたの名前を教えてくれ」
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