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今の花火が最後だったのか、人の波が河川敷から町へと流れてくる。
その中には、総司と近藤さんの姿も。
「あっ! 土方さんいましたよ! 近藤さんっ、こっちです! おーい、土方さーん! としぞーさーん!」
馬鹿でかい声で叫ぶ総司の方に視線を移すと、女はおかしそうに口元に手をあててクスクスと笑う。
「私、行きますね。ありがとう」
「あっ、おい! 待ってくれ! あんたの名前……」
「もっとお話したかったけど、私も連れが来ちゃったから……」
またね、と言って女は人の波に逆らって歩いていく。
また会える確証なんてないし、あれほどどうでも良かった名前だって今じゃ知りたくなっている。
手を伸ばしても人に邪魔をされて届かない。
だけどふと、女は振り返ってこちらを見る。
「トシさんの目、真っ直ぐで綺麗」
騒がしかったはずなのに、女が口を開いたその瞬間だけは、俺の耳には女の声しか届かなかった。
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