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食べ終わり、そろそろ移動しようと思っていると遠くから小走りしてくる浴衣の人がいた。
誰だ?と思って、足を止めていると……
「朱寧くん!!」
そう呼ばれてみるとそこにはその浴衣の女が。
「誰?」
身に覚えがなくってそう尋ねると、女は俺の腕に自分の体をピタッとくっつけ、甘えるような仕草で声を出す。
「えぇ?覚えてないのぉ?前に一緒にカラオケ行ったじゃん!!歌ったじゃん」
「え……そうだっけ?」
「んまぁ、覚えてなくてもいっか!これからちょっとでいいから一緒に屋台回ろ?」
……めんどくさいことになった。
柚葉は少し先を歩いていたから、俺が止まって絡まれていることには気づいていない。
気づかれたら柚葉といられなくなる……
それだけは嫌だ。
なのに。
「あっ、あれって同じ学年の柚葉君だっけ?」
女が「おーい、柚葉くん!!」と大きな声で呼ぶ。
人混みでも耳に入る大きさ、もちろん柚葉にも聞こえていて、振り向いて柚葉が目を合わす。
女でなく、俺と。
こちらにくれば柚葉は女に
「こんばんわ。どうかしたのかな?」
と、いつもの学校モードの顔と声色で尋ねる。
「今から朱寧くんと屋台回るんだけど、柚葉君も一緒にどうかなあって!」
「は?!だから、俺は回るなんてッ──」
「俺は今から帰るところだから。ごめんね……朱寧と楽しんできて?」
「そっかぁ、残念!またね柚葉くん」
「うん、またね」
「ちょっ、柚葉ッ!!」
柚葉は俺に視線を向けると、ひどく冷たい顔をして俺から遠ざかっていく。
嫌だ。嫌だ。
「ほら、行こ朱寧くん」
……何でこうなるんだよ。
「離せって!こっちはお前と回ってる暇なんてねぇんだよ!!ほんとにごめん!!!」
意味のわからない言葉をその女に言いつけ、腕を無理矢理振りほどいて、柚葉が消えた方向に走る。
行かないでくれよ……柚葉。
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