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「ははっ、何で朱寧そんな顔してんの?」
柚葉は何事も無かったように俺の隣に座り、笑いながらそんなことを言う。
何だかわからなくて、そのままじっとしていた。
「今にも泣きそうな顔してるけど、朱寧」
……そんな顔してんだ、俺。
「まぁ、そんな顔してないで花火でも見ろよ。ほら、これやるから!」
そう言って渡してきたのは、手に持っていた赤色のヨーヨー。
差し出した右の手のひらに、柚葉は何故か薬指にそのゴムを通す。
「普通中指か人差し指だろ。何で薬指なんだよ?」
「ん?女に絡まれてたことに対しての嫌がらせ的な?特に深い意味はないけどな」
柚葉はそう言うと「花火」と呟いて空を見上げる。
さっきまで、悲しげに聞こえた音全てが表情を変えて、俺の心を揺らす。
柚葉を見ると優しい表情をしていた。
黒髪に花火の光が差し込み、ネオンのように色をつけ輝く。透き通った瞳もキラキラと揺らす。
あまりにも綺麗で目を背けそうになってしまう。
「なぁ、柚葉」
もう二度と一緒に花火なんて見れないんだろうな。
「ん?」
さっきまで花火を見つめていた瞳が俺を映す。
「俺、今すっげー幸せ。柚葉と来れてよかった」
「俺も」
柚葉という「俺も」がどこからどこまでかわからないけど、それでも俺は嬉しかった。
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