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俺は人と別れる時に「またね」って言う。 絶対「バイバイ」とか「じゃあな」とは言わない。 だって、もう1度会えるから。 「バイバイ」とか「じゃあな」は二度と会えない人に言うものだって、思ってるから。 「そうかもな」 柚葉に答える。 きっと早いうちに柚葉に「じゃあな」って言うんだろうな。……何となく、そんな予感がする。 「だろ?」 「おう」 「まぁ、ほんとに朱寧が死んだとしても俺は絶対忘れない。忘れてやらないから」 「そこは忘れろよ」 ほんとは覚えていてほしい。 少しでも柚葉の記憶の中にいたい。 「嫌だな。何が何でも覚えといてやるよ」 そう言って、柚葉は俺の好きな笑みを浮かべた。 「もういい、寝る」 「人に散々言わせといてそれかよ」 「柚葉も寝るなら早く寝ろよ」 「おやすみ朱寧」 「おやすみ柚葉」 言い終わって涙が出てくる。 柚葉にバレないように、必死に声を押し殺す。 こんなに嬉しいことなんてなかった。 覚えてくれるということはこんなに嬉しいのか。 それに応えてやれない俺が悔しい。 本当のことを言ってやれない。 死ぬと言ってしまったら、何かが変わってしまうような気がして。 最後まで……最後まで柚葉の思う俺でいたい。 溢れ出す “ 好き ” は俺の心を縛りつける。 生きたい、と。 生きたいと思う執着心に。 そっと瞼をとじて、ゆっくりと息を吸う。 秋はゆっくりと風をなびかせる。 冷たい風が俺と柚葉の間を通り抜ける。 俺の “ 好き ” もどこかに持っていって欲しい。 そう思った秋の午後。 ──こうしてまた、季節が終わる。
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