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 はじめて彼女を目にしたとき、例えるなら向日葵のような人だと思った。  いつも明るくて、笑顔がまぶしくて、きらきら輝いているようにみえたからだ。  彼女が向日葵なら、僕はそのそばに生えている雑草あたりだろう。大きな花のせいでまともに日光を浴びられず、かといってそのことを主張することもできない。  ずっと太陽を見ている彼女は、決して僕の存在に気づくことはない。  同じ教室で時を共有していても、同じ世界で生きているわけじゃない。  人気者の彼女と、地味で目立たない自分の線が交わることなんてあるはずがない。 ――あの夏の日までは、確かにそう思っていた。  これは、僕と彼女が、学校から離れた場所で少しだけ時間を共有したときの物語だ。  別にドラマチックなことがおきたわけではないし、ときめくような恋愛が生まれたわけでもない。  ただ、ほんのちょっとだけ、狭い世界で生きてきた僕に光を差してくれた。  そして、おそらく彼女の中でも何かが変わった、そんな時間だったと思う。  きっかけは、高校二年、夏休みに入ったころ。  彼女がいつもと変わらぬ笑顔で、僕の家に花を買いにきたことから始まった。
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