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刑事たちに、小学生くらいの子供たちがが襲っていたと証言したが、一蹴されただけだった。
全く信じてもらえなかった。
常識的に考えれば、確かにありえないシチュエーションだ。
おれは映画館行きをあきらめて、城山をめざした。
長い石段を登っていく。
中腹辺りまで来ると、彼らに出会った。
缶けりをして遊んでいた。
幼児から小学校高学年の男の子たちまでいっしょになって、学校の運動場のような雰囲気である。
7歳くらいの女の子が、赤子をおんぶしてあやしていた。
おれは、目を疑った。背筋が凍りついた。
赤子でない。まだ、胎児だったのである。
おれは気づかないフリをした。
「あ、おじちゃん。こんにちわ」
ショール売りの少女が欅の陰から姿をみせた。
「やあ。みんなはどこに住んでるの。いつもここで遊んでるよね」
自然にふるまったが、動揺を見透かされているかもしれなかった。
「あっちよ。おじちゃんは特別だから、案内してあげるね」
少女のあとについていくと、大きな銀杏の木があった。
銀杏の木は2本あって、真ん中にお堂が建っていた。賽銭箱と供物置き場があった。
香を焚く匂いがした。
少女はお堂の格子扉を開けて中に入った。
「みんなここで生活してるの」
中は広かった。
たくさんの布団が敷きっぱなしだった。
すえた、異様な臭気がたちこめていた。
「裏にお風呂もあるの。ごはんは、お供え物や、栗や野イチゴ、柿。山ブドウもあるよ」
おれが質問しそうな項目を、少女は先回りして答えた。
山に自生する植物を摂取して生活しているようだ。
「お父さんやお母さんはどうしたの」
「いない。あたしたちは捨てられたか、殺された」
「え、なんだって?」
「オトナは大きらい!」
「でも、おれはオトナだよ」
おれは苦笑した。
「おじちゃんは特別なの。約束さえ守ってくれればね」
「お姉ちゃんを探したら、ここへ連れてくればいいのかな」
「うん」
「お姉ちゃんはどこにいるか、心あたりはある?」
おれは、腰をかがめて少女と同じ目線になった。
「キミの名前はなんていうの?」
「ハラダレイコ、お姉ちゃんは隣町にいるわ。緑が丘マンション503よ」
「そこまでわかってるのに、行かないの?」
「力が足らないの。だから行けない」
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