火曜日

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    2  刑事たちに、小学生くらいの子供たちがが襲っていたと証言したが、一蹴されただけだった。  全く信じてもらえなかった。  常識的に考えれば、確かにありえないシチュエーションだ。  おれは映画館行きをあきらめて、城山をめざした。  長い石段を登っていく。  中腹辺りまで来ると、彼らに出会った。  缶けりをして遊んでいた。  幼児から小学校高学年の男の子たちまでいっしょになって、学校の運動場のような雰囲気である。  7歳くらいの女の子が、赤子をおんぶしてあやしていた。  おれは、目を疑った。背筋が凍りついた。  赤子でない。まだ、胎児だったのである。  おれは気づかないフリをした。 「あ、おじちゃん。こんにちわ」  ショール売りの少女が欅の陰から姿をみせた。 「やあ。みんなはどこに住んでるの。いつもここで遊んでるよね」  自然にふるまったが、動揺を見透かされているかもしれなかった。 「あっちよ。おじちゃんは特別だから、案内してあげるね」  少女のあとについていくと、大きな銀杏の木があった。  銀杏の木は2本あって、真ん中にお堂が建っていた。賽銭箱と供物置き場があった。  香を焚く匂いがした。  少女はお堂の格子扉を開けて中に入った。 「みんなここで生活してるの」  中は広かった。  たくさんの布団が敷きっぱなしだった。  すえた、異様な臭気がたちこめていた。 「裏にお風呂もあるの。ごはんは、お供え物や、栗や野イチゴ、柿。山ブドウもあるよ」  おれが質問しそうな項目を、少女は先回りして答えた。  山に自生する植物を摂取して生活しているようだ。 「お父さんやお母さんはどうしたの」 「いない。あたしたちは捨てられたか、殺された」 「え、なんだって?」 「オトナは大きらい!」 「でも、おれはオトナだよ」  おれは苦笑した。 「おじちゃんは特別なの。約束さえ守ってくれればね」 「お姉ちゃんを探したら、ここへ連れてくればいいのかな」 「うん」 「お姉ちゃんはどこにいるか、心あたりはある?」  おれは、腰をかがめて少女と同じ目線になった。 「キミの名前はなんていうの?」 「ハラダレイコ、お姉ちゃんは隣町にいるわ。緑が丘マンション503よ」 「そこまでわかってるのに、行かないの?」 「力が足らないの。だから行けない」
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