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「どういうことだい?」
「もう行って、おじちゃん」
少女はバイバイと手を振った。
3
おれは階段を下りた。
子供たちはどうみても、きな臭かった。
きっと、二つの殺人事件に関与しているに違いない。だが、子供たちの表情を眺めると、なぜか優しい気持ちになってしまう。
やはり警察を説得して、来てもらうしかないだろう。
子供たちだけで、生活しているなんて考えられなかった。
途中で、中年の男女とすれちがった。
いかにも役人という顔つきだった。
彼らは立ち止り、おれを呼びとめた。
「すいません。私たちは児童相談所の者です。この先のお堂で、子供たちだけで生活していると聞いたものですから。何か見ましたか」
「ええ。15、6人いましたよ。早く行って、保護してあげてください。ただ・・」
「ただ、なんですか」
「オトナをひどく嫌ってるフシがあるから、気をつけた方がいいですよ」
「あなた、子供たちとコンタクトしたのですか」
「ええ、まあ」
おれは曖昧に答えた。
児童相談所の職員は顔を見合わせた。「どうも」と会釈をすると、足早に階段を上って行った。
おれは階段を下った。
15段程下りた時だった。上で悲鳴が聞こえた。
振り向いた。
二人の職員が絡み合ったまま、階段を転げ落ちてきたのだ。
どしん、どしんとバウンドしながら物凄い勢いで回転していた。
階段の上で奇声をあげる子供たちがいた。
職員の骨格は不自然に変形し、首は直角に折れ曲がっていた。
それでも回転は続き、階段のいちばん下で漸く停止した。
衣服がぼろぼろに破れ、赤紫の肉塊が布を突き破っていた。
名状しがたい恐怖感がおれを包んだ。
一目散に逃げた。
やはりこの町はおかしい。
おれは息を切らしながら、公園を走り、大通りに出た。
車の往来があったので、少しほっとした。
それもつかのまだった。
救急車やパトカーのサイレンがしきりなしに聞こえたからだ。
何十台という緊急車両が猛スピードで、道路を疾駆している。
異様な光景だった。
おれは喉がカラカラになった。
いつも行くコンビニに入った。
飲料コーナーからミネラルウォーターとコーヒーを取り出して、レジカウンターへ行った。
店員がいない。
「すいませーん。会計、お願いしまーす」
「・・・」
従業員用のバックヤードをのぞいた。
そこは血の海だった。
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