水曜日

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       2  予想していたことなので、落胆はしなかった。  おれは、緑が丘には郷土資料館があるのを思い出した。  確か、駅の反対側にあったはずだ。  古びた2階建の資料館である。  入館料を払い、中に入った。  エントランスホールの中央に、街全体の景観模型が設置されていた。  模型の右端の方に三角錐型の城山があった。  学芸員らしき女性がいたので、城山に関する伝承が知りたいと申し出た。  学芸員は、どうしてそんな事が知りたいのか、というような顔で、おれをじろじろ眺めた。 「地名伝承ですか、それとも口承伝承ですか」 「城山のわらべ歌についてです」  (とおりゃんせ、とおりゃんせ  ここはどーこのほそみちじゃあ)  おれは口ずさんだ。 「(ここは城山、わらしやま~)で、おわります。 わらしやまとは城山の別名でしょうか」 「少々お待ち下さい」  学芸員は陳列ケースを開くと、セピア色に変色した本をとりだした。ページをめくり、真ん中のあたりを開いた。 「わらしとは童子のことです。われ死す、が転じてわらしとなった説もあります」  学芸員は興味深いことを語りはじめた。  昭和40年ごろまで、城山は、白露山もしくは死呂山とも表記されていた。市町村統合などがあって現在の「城山」に変更されたのだという。 「あそこには子捨て山伝説がありまして・・・」 「都市伝説みたいな?」  おれは口をはさんだ。 「ここは民俗学資料館ですよ。そういった類いは扱っておりません」  学芸員はそこまで言いかけて、トーンを急に落とした。 「口減らしや虐待で亡くなった幼い子供たちの霊が集まる場所、という、古くからのいい伝えです・・・全国でも珍しい伝承事例ですわ」 「姥捨て山伝説はよく耳にしますが、子捨て山とは・・・」  おれは学芸員に礼を言い、資料館をあとにした。      3  おれは自分の街に戻った。  緑が丘と違って、恐ろしく静まり返っていた。  ゴーストタウンのようだった。  コンビニに寄った。  あいかわらず店員の姿はなかった。  おれは飲み物と食料を調達して、勝手にレジ袋に入れて、持ち出した。誰もとがめる者がいないのだ。  異様だった。  おれは警察署の方角へ向かった。  受付に眼鏡をかけたきつそうな感じの婦人警官がいた。  数年前に事故死した女児のことが知りたいと、申し出た。    
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