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翌日の木曜日。
おれはまた緑が丘マンションへ行った。
503号室のインターホンを押した。
どうしてもお話したい粘ると、ようやくドアが開いた。
母親でなく、中学生くらい娘が現れた。
「どうぞ」
彼女は警戒しながらドアの角度を広げた。おれはあがるつもりはないから、玄関先でいいと、遠慮した。
「お母さんはいますか?」
「買い物。母から聞きました。妹のことですよね」
「そうです。妹さんがこのマンションを教えてくれました。私はお姉さんを連れて行くと約束してしまった。会ってもらえませんか」
「むりです。麗子は、階段から落ちて頭を打って死にました」
「このショール、見覚えありませんか」
おれは、持参した紫色のショールをみせた。
姉の顔が強ばるのがすぐにわかった。
「知りません。あたしは麗子には会いません。でも・・・」
「でも、なんでしょう?」
「実は1年くらい前にも、紫のショールが出てきて」
「出てきて・・で?」
「燃やしました。あなたもそうして下さい。そのショールはきっと呪われているんです。生地の模様が迷路みたいでしょう?」
指摘されて、おれはその場でショールを広げた。
おれは思い出した。
ショールを持ち帰った日。
生地の迷路模様を指先で辿っているうちに、眠ってしまったことを。
「呪い?馬鹿らしい」
「どう思われようと、妹には会わないと、ニセの麗子さんにお伝えください。どこでどう調べたのか、知りませんけど、麗子は5歳の時に死んだのですから」
「わかりました。ご迷惑をおかけしました」
おれはマンションをあとにした。
城山を住処にする子供たちの目的はなんだろう。
警察がきちんと対応しくれるといいのだが。
おれはもう一度掛け合うつもりだった。地元警察がだめなら、警察本部に直接問い合わせてみるか。
そんなことを考えながら、駅名までの道のりを歩いていると、すぐ脇にタクシーが止まった。
客席の窓が開いて、姉が顔を出した。
「妹に会います。乗ってください!」
タクシーのドアが開いた。
おれは状況が飲み込めなかったが、とりあえず、乗りこんだ。
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