日曜日

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     1  日曜日のぼろ市。  青空市場をぶらつきながら、いろんな品々を冷やかす。  とりたたてて欲しい物があるわけでもないが、ごったがえす雰囲気を楽しむには充分である。  とうもろこしが焦げる匂い、わたあめの匂い。  いかにも素人っぽい呼び込みの声。  人波を押し分けながら歩いていると、ブルーシートに布切れを広げているコーナーにでくわした。  色落ちしたスカーフやショールが、シートの上に無造作に投げ出されている。  5歳くらいの女の子が、椅子に座って熊のぬいぐるみと遊んでいた。  象さんのアップリケが刺繍されたブラウスを着ている。下は赤いスカート、白いソックス、スニーカーはピンク色だった。  少女はぬいぐるみと遊ぶのをやめて、顔を上げた。  おれはちょっとした好奇心から、少女の前で足を止めてしまった。  女の子は不思議そうな顔でおれをのぞきこんだ。だが、すぐに視線をそらして、遠くを眺める眼差しになった。   「おじちゃん、買うの買わないの?」  少女は大人びたせりふを吐いた。  おれはちょっぴり驚いて、彼女の顔を見た。茶色いおかっぱ頭。大きな黒い瞳、マシュマロのような頬をしていた。  どう見ても子供だった。 「おじちゃんはないだろ。おれは、まだ25だよ」  おれは、ショールの山に手を伸ばした。  柔らかくしんなりした肌触りだった。 「25歳でもおじちゃんなの。そのショール、おすすめだから買って」  見た目以上に口達者らしい。  おれは苦笑いしながら、紫色のショールを広げた。  良く見ると、白、赤や緑、銀色の糸が無数に縦横に織り込まれている。  それが太陽の光を反射してきらきらと輝いた。  微細な宝石でも散りばめてあるのかと、錯覚するほどの美しさだった。 「いくらだい?」 「1万円」  幼い子はけろりとして言った、 「ぼろきれにそんな価値はないよ。ところで、パパとママはどこだい? お金のやりとりは大人がやるんだよ」 「パパもママもいない。あたし、ひとりでやってるの」 「おい。ウソだろ」 「おじちゃん、悪そうな人じゃないから、8千円でいいよ」 「買わないよ」 「お願い、買ってよ。売れないとご飯食べれないよ」  少女は切ない声をだした。  おれは周囲を見回した。  ひょっとすると、この娘の両親が遠くから監視しているかもしれない。演技しろと、命令されてるのかと思ったのだ。
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