日曜日

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「パパもママも死んだから、探してもいないの」 「死んだ・・・」  やれやれだ。  おれは、それ以上詮索する気になれなかった。 「いいよ、8千円で買うよ」  なげやり気味に妥協して財布を用意した。 「わあ、ありがとう」  少女はショールを器用に折り曲げて、コンビニの袋に入れた。  おれは商品を受け取り、ぼろ市をあとにした。  お人よしで、このとんちき!  こんなショールが8千円だと。  少女の笑顔を後悔で交換したようなものだ。  おれは自分の馬鹿さかげんをののしった。  アパートの部屋に戻ると、寝そべり、ショールを広げた。  それは化学繊維というよりは、動物の毛で作ったような柔らかで温かな手触りだった。  ほつれも汚れもあった。  紫色の布切れには虫食いの小さな穴も空いている。  陽射しの下では綺麗に見えたのだが。  眺めているうちに、複雑な幾何模様が織り込まれていることに気がついた。  白や赤い線が、渦を巻いたり、直線になったりして、迷路のように入り組んでいた。機械では裁縫できない複雑さだが、さりとて手縫いでも、ここまで完成するだろうか。  美術品?  そんな錯覚にとらわれた。  眼の奥が痛くなるような幻惑感。  紫色の地の上を、極細の糸がもつれながら、切れ目のない模様を描いている。  織り込まれた繊維の迷路を指先で辿ってみた。  布切れのすみに、ぱっくりと空いた入口らしき路。  迷路は、あたかも未知の世界へ誘っているかのようだった。  だが、ほんの2センチも進まないうちに頓挫した。  眠くなったから。  顔が熱った。    
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