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あれが訓練だったのだろうか。
おれにはよくわからない。
確かなことは、さまざまな武器の扱いに長けた記憶があるということだ。
「迷路の行き先はいろいろあるの。いきどまりもあれば、恐ろしい罠に嵌って逃げ出せないときもある」
麗子はこともなげに言った。
おれは体の芯から震えがくるのを感じた。
恐ろしい敵と対峙する恐怖でななく、ここがどこかわからないという名状しがたい不安が湧いてくるのだ。
「そいつをやっつければ、おれは元の世界に戻れる?」
「さっきも言ったでしょ。映画とは違うって」
「そんな野郎に銃が役にたつのかな」
おれは拳銃の弾倉に9ミリ弾をこめながら言った。自分でもあきれるほど、手指がスムーズな動きで銃を扱っていた。
「気休め程度ね。相手は異世界の魔王よ。せいぜい楽しんでね」
「おい、そんな言い方はないだろ」
「おじちゃんがあいつと戦っている間に、あたしは逃げるから」
「どこへ逃げる? 麗子も迷路のど真ん中にいるんじゃないのか」
「ううん。ここはあたしが創った世界。迷子にはならない」
少女はかすかに笑った。
「そうだ、あいつをここに閉じ込めて出られなくするのはどうだ?
麗子はおれといっしょにおれの住んでいる世界に来ればいいじゃないか。普通、迷路には入口と出口があるけど、両方塞いでしまえばいい。できるか?」
「あのね、あたしはすでに死んでいるの。おじちゃんとはいっしょに行けない。神殿の場所を教えてあげる。そこの階段を登り切ると、紫色の扉があるの。扉を開けると、おじちゃんがいた世界に出られるわ」
「神殿?そんな物まで・・・」
「ほら、山にお堂があったでしょ?あそこと繋がっているの。あいつは、そこから侵入したのよ。誰かが教えないと、分からないはずなのに・・・」
「もっとこの世界のことを教えてくれ」
「だめよ、ひ、み、つ」
麗子は小さな指を唇に押しあてた。
わずかかの間をおいて、かっと眼を見開いた。血で濡れた真っ赤な眼をしていた。
「あいつがやって来た。すぐそこにいる。建物の外よ、今、玄関に入った・・・・武器の用意して」
赤い瞳は遠くを眺めている。彼女の網膜にあいつの動きが映っているのだろう。
「部屋のドアが開いたら撃ちまくって」
麗子はドアを見つめたまま言う。
おれは薬室に9ミリ弾を装填して、安全装置をはずし、両手でグリップを握った。
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