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鮮やか緑色の広い芝生と咲き乱れる色とりどりの花畑。
柔らかな日差し。
絵本に出てきそうな白い壁の家。屋根はピンク色だ。
風はおだやかだった。
屋外の丸テーブル席。
おれは白い椅子にもたれながら、ひどく甘いミルクティをひとくち飲んだ。
おぼつかない手つきで、麗子がもてなしてくれたのだ。
あの暗欝な場所とはうって変わり、なんとのどかな場所なのだろう。
麗子の心象風景にはこういう空間もあったのだ。
「おじちゃん、ゆっくり休めた?」
少女は生意気そうに言うと、紅茶ポットからカップにミルクティを注いだ。
「ぐっすり寝たよ。ふかふかの布団だった」
半分は嘘だ。ぐっすり寝られるわけがない。
「よかった。だったら、神殿の階段を登っていけるわね。あの花畑の向こう側にお城の塔が見えるでしょ?そこのてっぺんがおじちゃんの本当の世界。紫色の扉があるからそれを開けてね。外に出たら二度とここには戻れない」
「あいつはどうするんだ?トラックの運転手は?」
「なんとかする」
「どうやって」
「これを使うわ」
少女は紫のショールをとりだした。それは大ぶりで、広げると、幼い麗子の体をすっぽりと包んでしまった。
「ショールをあいつにかぶせて燃やしてしまう。そのときにこれも使う」
彼女が手にしていたのは手榴弾だった。
こんな武器をどこから手に入れたのだろう。
「接近戦だな。きついぞ」
「ジュウジュンなフリをする」
「従順!難しい言葉を知ってるな」
「だって勉強してるもん。学校には行けないけどね」
「よし、ふたりでやっつけよう。そうしたら、おれの世界へおいで。入学してランドセルだ」
「だめよ、行けない」
「そう言うと思った。ちょっと待ってろ」
おれは立ち上がると、おとぎ話の家の中に入った。
淡いピンク色に統一された壁に、いろんな武器がたてかけてあり、戦闘用の服がハンガーに吊られていた。
そこの箇所だけ異様な光景だった。
おれは戦闘用のジャケットを着た。ボーガンと矢を背負い、腰には自動式拳銃を、右手に自動小銃、ジャケットの胸には二発の手榴弾をぶらさげる。
全身がずっしりと重くなった。
「凄い、凄い。本物の兵隊さんみたい」
麗子ぱちぱちと手を叩いた。
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