第2火曜日

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 周囲は灰色の草原だった。腰の高さまである草がはるかかなたまで広がっている。  神殿の尖塔が近くに見えたので、それほど遠くはないだろうと思っていたのだが、実際はかなりの距離を踏破しなければならなかった。  雪も降ってきた。  氷のような風が肌を刺した。 「麗子、しっかりしろ。わかるか」  おれは何度も呼びかけた。  しばらく歩いて、ようやく神殿に辿りつた。靄のような薄い明かりが神殿全体を照らしている。細長い四角い柱が五角形状に天空へ伸び、柱と柱の間には渡し回廊があった。  階段は四角い柱にまとわりつくように、螺旋状に宙空へ延々と続いて、その先は消えていた。  おれは階段を昇りはじめた。  十段、二十段、百段。  その辺りまで昇ると、眼下に迷路の景色が広がった。  そこには街なみや公園、山、河川が見えた。  麗子が住んでいた白い家も見える。 「うーん」  麗子が目を開いた。 「立てるか」 「平気よ。ありがとう、おじちゃん。でも、ここまで」  麗子はおれの両腕から離れると紫のショールを広げた。 「ほら、あいつが追いかけてきた。あいつはそう簡単には死なないの」  麗子は言いながらショールを体に巻きつけた。 「あたしはこのままあいつの所へいって手をつなぐ。そうしたら、おじちゃんはボーガンであたしを射って。ただし矢じりはこれよ」  麗子はおれのジャケットにぶらさがっている手榴弾をつついた。 「ショールには時間と空間を閉じ込める力があるの。爆裂弾をショールに中で爆発させれば、あいつも粉々になる。あたしも死ぬけど、おじちゃんは元の世界に帰れるから安心して」 「おい、ちょっと待ってくれ。せっかくここまで来たんだ。自分から蜘蛛の糸を切るまねはよせ」 「楽しかったよ、じゃあねえ・・・あたしのやること無駄にしないでね。さもないと、おじちゃんは一生ここから出られないし、お友達もいないよ」  麗子は階段を駆け降りた。  そいつは何事なかったような顔をして、麗子を迎えようとしていた。  麗子はショールを男に巻きつけはじめた。  男は麗子の意図をすぐに悟ったようだ。麗子を突き放しにかかるが、食らいついた野犬のように離れない。  男は少女を激しく殴打しはじめた。  麗子の小さな頭が振り子のように揺れる。  鼻と口から血があふれだした。苦痛で歪んでいる。 「今よ!」  彼女は叫んだ。
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