月曜日

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 大通りは車の往来が激しかった。  クラクション、エンジン音。  雑多なわりに人影は多くなかった。  あたりが空虚に見えてきた。  おれは走って、いつものコンビニをめざした。コンビニ入り口のわきに公衆電話が設置されているからだ。  受話器をあげて119番を押す。 「火事ですか、事故ですか」  冷静な声が聞こえたとたん、おれはほっとした。  状況を伝えた。 「わかりました。すぐに手配します」  おれは電話を切った。  ガラス張りの店内に客の姿がなかった。いつも盛況な店なのに、珍しい。  レジには店員がいるようだ。  買い物どころではなくなってしまった。   おれは公園広場へ戻った。  人だかりができて、騒ぎにになっているだろう。  誰もいなかった。  子供たちのけたたましい笑い声だけが、地を伝わってきた。  嘲るような乾いた哄笑にも似ていた。  それは重大な異変だった。  死体がない。    辛抱強く抗弁したが聞き入れてもらえなかった。  おれは、警察から大目玉をくらったのである。    池のそばのベンチに腰掛け、水面をぼんやりと眺めた。  確かに血だらけの中年男が死んでいたのだ。  警察はおれをハナから威力妨害犯と決めつけ、脅し文句をごっそりと浴びせた。  目撃者はいなかったのだろうか。  城山で遊んでいる子供たちはどうだろう。不審者を見たかもしれない。  おれは、淡い期待を抱いた。  苔むした石段が、山の頂上まで続いてている。  小さな古い山門をくぐり、長い石段を登りはじめた。  まわりは暗い木々に覆われて、湿った匂いがたちこめていた。  3歳から8歳くらいまでの子供たちが、石灯籠の陰から、おれをじっと見ていた。10人はいそうだ。  連中は今風ではない身なりをしていた。  みすぼらしい格好といった方が、しっくりするかもしれない。  階段の上の方で、赤いスカートが翻った。  昨日の、ショール売りの少女だった。  象さんアップリケの白いブラウスの所々に、赤い薔薇が咲いようなしみが広がっていた。 「あ、おじちゃん。ここは子供山だよ、大人は立ち入り禁止」  少女は両手を広げて通せんぼをした。 「今、下の公園で人が殺されたんだよ。怖い人がいるから、みんな帰ったほうがいいよ」  おれは立ち止って事情を説明した。  ブラウスの赤い染みが気になって仕方がない。
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