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「あたしは殺してないよ。死んだのは悪い人?」
少女はいきなりぴょんぴょんと跳ねた。
「おじちゃんは悪い人?」
「おれはそんなことしない。ねえ、その赤いのは血だよね」
「そうだよ、でも、あたしは殺してない」
「じゃあ、誰がやったのかな」
背丈がまちまちの男の子と女の子たちが、おれのまわりに集まった。
何日も着替えをしていないような、よれよれの服装。
みんな生気のない顔をしている。黒くてきらきらした瞳ではなく、空洞のような眼つきで、じろじろとおれを観察していた。
どことなく、薄気味悪さを覚えた。
「じゃあ、帰るよ。みんなも早くお帰り」
おれは階段を下り始めた。
「だめよ、帰れない」
少女が笑うと、まわりの子供たちが、童謡を歌いはじめた。
ここはどーこの細みちじゃあ
しろやまさまの細みちじゃあ
行きは、よいよい
帰りは こわーい
ここはしろやま
わらしのやま
ゆきどまり
とおりゃんせ、とおりゃんせの旋律だが、どこか違う。
(わらし)とは(わたし)のことか。それとも地名?
彼らは歌いながら円陣つくり、おれをぐるりと囲んだ。
力づくで、子供たちの輪を突き破るのはたやすい。しかし、そうするのもためらわれた。
「あのね、お姉ちゃんが連れていかれたの。だからあたしは探してるの。おじちゃん、探すのを手伝ってくれたら、帰してあげるよ」
突然、少女は突拍子もないことを口走りだした。
「わかった、わかった。手伝うから、みんなどいてくれ」
おれは面倒臭くなっていい加減に返事をした。
「わーい。約束だよ」
少女は嬉しそうに笑った。
すると、子供たちの固い表情が崩れて笑い顔になった。
円陣をつなぐ手か切れて、子供たちは石灯籠の陰に隠れたり、石段に落ちていた棒きれを拾ったりして、遊びはじめた。
おれは階段を駆け降りた。
下まで降り切ってから、石段を見上げた。
子供たちの姿はどこにもなかった。
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