月曜日

4/4

37人が本棚に入れています
本棚に追加
/47ページ
「あたしは殺してないよ。死んだのは悪い人?」  少女はいきなりぴょんぴょんと跳ねた。 「おじちゃんは悪い人?」 「おれはそんなことしない。ねえ、その赤いのは血だよね」 「そうだよ、でも、あたしは殺してない」 「じゃあ、誰がやったのかな」  背丈がまちまちの男の子と女の子たちが、おれのまわりに集まった。  何日も着替えをしていないような、よれよれの服装。  みんな生気のない顔をしている。黒くてきらきらした瞳ではなく、空洞のような眼つきで、じろじろとおれを観察していた。  どことなく、薄気味悪さを覚えた。 「じゃあ、帰るよ。みんなも早くお帰り」  おれは階段を下り始めた。 「だめよ、帰れない」  少女が笑うと、まわりの子供たちが、童謡を歌いはじめた。  ここはどーこの細みちじゃあ  しろやまさまの細みちじゃあ  行きは、よいよい  帰りは こわーい  ここはしろやま  わらしのやま  ゆきどまり  とおりゃんせ、とおりゃんせの旋律だが、どこか違う。  (わらし)とは(わたし)のことか。それとも地名?    彼らは歌いながら円陣つくり、おれをぐるりと囲んだ。  力づくで、子供たちの輪を突き破るのはたやすい。しかし、そうするのもためらわれた。 「あのね、お姉ちゃんが連れていかれたの。だからあたしは探してるの。おじちゃん、探すのを手伝ってくれたら、帰してあげるよ」  突然、少女は突拍子もないことを口走りだした。   「わかった、わかった。手伝うから、みんなどいてくれ」  おれは面倒臭くなっていい加減に返事をした。 「わーい。約束だよ」  少女は嬉しそうに笑った。  すると、子供たちの固い表情が崩れて笑い顔になった。  円陣をつなぐ手か切れて、子供たちは石灯籠の陰に隠れたり、石段に落ちていた棒きれを拾ったりして、遊びはじめた。    おれは階段を駆け降りた。  下まで降り切ってから、石段を見上げた。  子供たちの姿はどこにもなかった。  
/47ページ

最初のコメントを投稿しよう!

37人が本棚に入れています
本棚に追加