火曜日

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       1    がらんとした街並み。  林立する雑居ビル。  無機質で埃っぽい壁。  遠くから響く蝉時雨のような子供たちの声だけが、アスファルトに染み込んでいく。  いつもと違う雰囲気。  そういう日もあるかもしれない。  今日は電車に乗って都心部まで映画を観に行く予定だった。  連れはいないが、その方が自由気ままでいい。      ビルとビルの隙間の路地の奥から、女の悲鳴が聞こえた。  おれは、はっきりとその光景を見た。  お腹の大きな女性が、小さな子供たちに襲われていたのだ。  子供たちの姿は10人くらい。小学校低学年とおぼしき男女の集団が、鎌のようなもので切り付けていたのだ。 「おまえたち、なにやってるんだ!やめろお!」  おれが駆けつけると、子供たちは一斉に逃げた。子供たちは逃げながら、童謡を歌っていた。 「いきはよいよい、かえりはこわーい」  おれは追わなかった。    妊婦の胸から腹部にかけての服が破れて、血まみれの肌が露出していた。  おれは思わず目を背けた。  腹部が切り裂かれて内臓があふれていたのだ。  彼らが何をやらかしたのかは、すぐにわからなかった。  母親は絶命していた。  子供たちの恐ろしく残酷な行為だった。  おれはケータイをだした。  画面を開いたとたん、おれは言葉にならない悪態をついた。  電波状態を表すマークがゼロになっている!  現場はビルとビルの間の細い路地である。電波状態が悪かったのだ。  おれは大通りへ走った。  警察と救急を呼んだ。      警察車両と警官は大挙して押し寄せたが、またしても、おれは言い訳をしなければならなかった。  そう。  また死体が消えていたのだ。    だが、今回は警官は怒らなかった。周辺に血だまりあったから。  鑑識の腕章をつけた係官の話し声が聞こえた。 「妊婦さんの腹を裂いて、赤ちゃんを持っていったみたいだ。へその緒が、刃物か何かで切断された形跡はあるからね」  長い時間の事情聴取があった。  担当の刑事と1時間くらい話をして、おれはようやく解放された。
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