ストロベリームーンを君と

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越後線、越後曽根駅七時十一分発の電車。 座席が空いていることを願って、二両目の一番前のドアから乗り込む。 しかし、車内はすでにたくさんの学生たちが占拠していた。 笑いあい、じゃれあい、さながら修学旅行のバスの中のように、一日の始まりが楽しくてしかたないという活気に満ちていた。 一方、学生たちの隙間を埋める、通勤のサラリーマンたちの姿もあった。 ただこちらは、小さく折りたたんだ新聞に目を凝らしていたり、渋面を浮かべながら無理矢理眠りにつこうとしている。 まるで、大しけの漁船の中のように、一日の始まりに苦痛を感じているように見えた。 かくいう私も、そのひとり。 見回しても、空いているシートはない。 これから新潟駅までの約四十分間、立ったままでいなければならないのかと肩を落とし、憂鬱な気分になった。 本社監査室の査察を前に、残業続きの毎日。 通勤の時間くらいは、リラックしたかったのだが。 座れないのなら、せめて寄りかかれる場所を確保しようと、連結部分に近い吊革を選ぶ。 プラスチックの白い輪に、全体重と憂鬱をかけてぶら下がった。 横揺れの反動をともなって、電車が動き出す。 車内アナウンスが、次の停車駅を告げる。 窓外の学習塾の看板が横に流れていく。 毎日の光景。年間二百五十日のルーティン。
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