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目の前の席には、男子高校生がいた。
退屈そうに前髪をクルクルと指先でねじりながら、スマホを眺めている。
不遜なことに、少年は自分のスポーツバッグをシートの上に乗せていた。
そのバッグをどかせば、あとひとり座れるのに。
この状況に気付いてくれるかと思い、咳払いをしてみる。
しかし、少年の耳にはスマホからのびるイヤホンがはまっていた。
シャカシャカと耳触りな音が聞こえる。
ここで注意をして、バッグを下ろさせても構わないのだが、朝から互いに嫌な思いをすることもないだろう。
言い争いになっても面倒だ。
私は車両の壁に肩を預け、やりすごすことにした。
ブリーフケースの中の、シャーリー・ジャクスンの出番はなさそうだ。
それにしても、華奢な少年だ。
夏服なのだろう、ワイシャツからのびる手は、白く細い。
バッグにもワイシャツにも校章は見当たらず、どこの高校かまでは分からない。
いや、後で学校にクレームをつけてやろうとなどとは思っていない。
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