ストロベリームーンを君と

3/19
42人が本棚に入れています
本棚に追加
/19ページ
目の前の席には、男子高校生がいた。 退屈そうに前髪をクルクルと指先でねじりながら、スマホを眺めている。 不遜なことに、少年は自分のスポーツバッグをシートの上に乗せていた。 そのバッグをどかせば、あとひとり座れるのに。 この状況に気付いてくれるかと思い、咳払いをしてみる。 しかし、少年の耳にはスマホからのびるイヤホンがはまっていた。 シャカシャカと耳触りな音が聞こえる。 ここで注意をして、バッグを下ろさせても構わないのだが、朝から互いに嫌な思いをすることもないだろう。 言い争いになっても面倒だ。 私は車両の壁に肩を預け、やりすごすことにした。 ブリーフケースの中の、シャーリー・ジャクスンの出番はなさそうだ。 それにしても、華奢な少年だ。 夏服なのだろう、ワイシャツからのびる手は、白く細い。 バッグにもワイシャツにも校章は見当たらず、どこの高校かまでは分からない。 いや、後で学校にクレームをつけてやろうとなどとは思っていない。
/19ページ

最初のコメントを投稿しよう!