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そして、その唇に目が止まる。
やや小ぶりで形が良い。
女の子の様に、ふっくらした血色のよい唇…。
あの、唇とキスをしたのかと妄想が止まらない。
顔が、カァァとしたのが解った。
自業自得だが、ある意味、不可抗力。
不問にきして欲しい。
『…具合悪いの?』
少し心配した声音で、聞かれた。
『…違う…大丈夫…。』
慌てて立ち上がり、縁側に行った。
『…無理してない?』
私は首を千切れる勢いで、振った。
それを見ると、彼は納得したのか車に歩いて行った。
………予想してたけど…。
彼は【普通】だった。
何となく、そんな気はしていた。
独特の気恥ずかしさからくる、照れ臭い空気は微塵も感じなかった。
いつも通りでホッとしたような、ガッカリした様な。
昨日の夜…ほんの少しだけ恋愛を彩る感情が垣間見えた気がしたのに。
今の彼からは、そんな出来事があったとは想像がつかない。
変な虚脱感をおぼえながらも、窓を閉めて玄関から外に出た。
………あれ?
『…どうかした?』
『…この車は?』
本日は軽トラではなかった。
白いセダン系。
普通の車である。
車種はよく解らないけど、ちょっと高級感が漂う。
『…伯父さんのだよ。』
まあ、そうだろうけど。
彼の伯父さんは、何をしてる人なのか?
この地域の雰囲気だと、やはり農家のイメージ。
昨日の軽トラといい。
まあ、乗用車くらい持ってるだろうが。
何となく、ギャップを感じた。
ゆっくりと、豪邸に訪問する様な足取りで助手席に座った。
昨日の、ガタゴトした窮屈な車内とは一変する。
ソファーみたいに座り心地が良いシート。
それに、広い…。
余程の事がなければ、隣の彼に触れる事はない。
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