彼の想いも世界からはみ出した

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若さ故の反骨精神もない彼は、言われるまま車を指示通りに停める。 若者にありがちな、無意味な国家権力に対する態度は見られなかった。 『免許証、お願いします。』 『ダッシュボードから、財布取ってくれる?』 『あ…うん。』 私は頷きながら、ダッシュボードを開ける。 財布を手にして、彼に渡した。 『車検証もいいかな?』 検問は初めての体験だったけど、何か違和感を感じた。 免許証だけでない物を提示するのは、変だと。 今度は私に頼まずに、彼はシートベルトを外すと。 直接、ダッシュボードに手を入れた。 その際に、バラバラと紙が落ちた。 私は【拾うよ】と、目で合図をする。 彼は警察官の対応が、あるから。 だが、もう1人警察官が助手席の窓をノックした。 紙を拾いながら、窓を開けた。 『こんにちは。少し、いいですか?』 『…あ、はい。』 『ドライブ?』 『…はい。』 『どこから来たの?』 ニコニコしているが、少し怖かった。 自分が警察官に尋問される様な事は、経験がなかったから。 『お婆ちゃんの家に来ていて…。自宅は東京です。』 不思議なもので。 自分は何も悪くないのに、非常に緊張した。 警察官の対応も丁寧なのに、私を疑いの眼差しで見ている様な気がしたから。 お陰で、彼の方を気遣う余裕はなくなった。 警官と彼の会話を聞く余裕はなくなった。 『何か、身分を証明できるものはあるかな?免許証とか保険証とか。』 『あの…。どちらも持っていません。せいぜい、キャッシュカードくらいで。』 私は慌てて財布を取り出すと、中からキャッシュカードや診察券などを出して渡した。
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