日常の延長な出会い

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【……暑い。】 私は心の中で、何度この言葉を呟いたか解らない。 ギラギラとした真夏の陽射しに意識が遠退きそうだ。空は青々として、綿菓子の様な雲がゆったりと浮かんでいる。 蝉の合唱も、騒音を通り越して何だか何処で鳴いているか解らない状態だった。 ロケーションだけなら、最高に清々しい真夏の1枚なのだが。 実際にその場にいる人間には、ただ殺人的な暑さなだけだった。 ヨロヨロとした足取りで、歩きながら手元の地図を眺めた。 かなりデフォルメされた簡易な地図。 …これじゃ普通解らないよ。 そう思いながらも、不安は特別にはなかった。 何故ならば、目的地は病院。 誰かに聞けば、すぐに答えてくれるはず。 とはいえ、自力で到達すべく歩いていた。 指定されたバス停で降りてから、なんだかグルグル歩いている。 人に聞けばすぐ解るのに、何故そうなっているのか? それは、人に聞いていないからだ。 誰もいない訳ではない。 普通に人々が行き交う。 都会とは違うけど、特別な過疎地帯という訳ではないのだ。 ただの、町である。 私はあまり、知らない人に話し掛けるのが得意ではないのだ。 病的な人見知りではないにしろ、少し気恥ずかしいというか…。 地図によると、バス停からすぐのはず。 ちなみに、方向音痴な方でもある。 文明の利器である、地図検索もしたが…。 その結果は、全く違う場所を指していた。 GPSのトラブルだろうか? …参ったなぁ。 流れる汗を拭いながら、バス停の近くの大木の木陰に避難してみた。 そんな時に、視線を感じた。
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