僕を見下ろす花火の熱さを

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 この辺かな、と当たりをつけて人混みの中で立ち止まろうとしたのに、颯真はぐいぐい腕を引いてずんずん歩いていく。 「颯真?」  どこまで行くの、と声をかけたら、振り返った颯真がいたずらっ子みたいな無邪気な顔で笑う。 「もうちょい先」 「ぇ? でも……」  そっちは有料観覧席だよ、と声をかけたら、颯真はまたいたずらっ子みたいに。  だけど、照れ臭そうに笑った。 「ホテルがダメだったからさ……なんかないかなって思って……予約しちゃった」  ひら、と見せられたのは、有料観覧席のチケット。 「まぁ、こっちも予約したの遅かったから、あんまり良い席じゃないかもしれないけどね」 「そうま……」 「あ、大丈夫だよ、別にそんな高いとかじゃなかったから、ホントに」 「……ありがと」  無茶はしてないからね、と慌てて念を押すのがおかしくて。  そっと笑って繋ぐ手に力を込めて、颯真を見つめる。 「……忘れらんなくなった。…………その……新婚、旅行」  熱い顔の紅い色は、夜の闇に紛れてくれただろうか。  オレの言葉に一瞬呆気にとられた顔した颯真は、だけど意味を理解した瞬間にくしゃくしゃの顔して笑い返してくれた。 「よかった」  *****
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