僕を見下ろす花火の熱さを

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 有料観覧席は、とにかく凄かった。  席自体はさすがに後ろの方だったけど、座ってゆっくり見られるから誰かの頭が邪魔なんてこともないし、何より迫力が違った。  大きな花火が上がる度にそこかしこから歓声が上がって、バチバチ爆ぜる音の後に夏の暑さとは違う熱を感じたような気がして。  もしかして花火が燃える熱が届いたんじゃないかだなんて、ちょっと興奮した。  司はどうなんだろうとそっと隣を伺えば、手を握りしめて食い入るように空を見つめていて。 「……司?」  あの頃を彷彿とさせるその横顔にギクリとして、握りしめられた司の手に、そっと自分の手を重ねてみる。 「司?」  花火の合間。音の途切れたタイミングで声をかけたら。  ようやくハッとしてこっちを向いた司が、ぎこちなく笑う。 「ごめ……なんか、圧倒されちゃって」 「……」 「……ホント。……だって、近いからさ」  何かを聞き返す前に言い訳めいた言葉を紡ぐのが、動揺を現していて切ない。 「大丈夫だよ」 「……」 「オレに嘘吐かなくていいよ」 「……」  重ねた手に力を込めたら、ん、と淋しい声で頷いた司が俯いたまま 「手」 「ん?」 「……そのままでいて」 「いいよ」  ありがと、と泣き笑いの表情で呟いた司が、ゆっくりと視線を空に戻す。 「…………すごいね、はなび」 「……うん、すごいね」 「……きれいだね」 「うん」 「……すごくね……すごく、……」 「うん」 「…………、……」  言葉を探して口を開いたのに、結局何も言えなかった司の手が、ぎゅっとオレの手を握りしめてくる。 「…………となりにいてね、ずっと」 「当たり前でしょ」 「……ん」  司の目からぱたぱた雫が落ちてくのを、見ないフリして。 「いつまでだって、ずっと司の隣にいるよ」  司の指で光る指輪を、トントンと叩いた。 「約束したでしょ」  *****
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