僕を見下ろす花火の熱さを

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 最後の打ち上げ花火がバチバチバラバラ言いながら空に消えて、煙が風に流されていくのを呆然と眺める。  周りの人達がガタガタと椅子を鳴らして立ち上がって出口の方へ歩いていく音が聞こえて、ゆっくりと視線を空から地上に戻したら。 「……司」  遠慮がちな声がオレを呼んで、花火の間じゅう握っていた手がそっと揺らされた。  ん、と頷いて、空いた方の手で顔を拭う。 「ありがと」 「司……」 「誘ってくれて、ありがと」 「……うん」  ほんの少し後悔してるみたいな顔をする颯真に、そっと笑いかける。 「あのね、颯真」 「うん?」 「……来年も、来ようね」 「……でも……」 「来ようね」 「……どうして?」  辛そうだったよ、と哀しそうに呟く颯真のしょんぼりした顔を覗き込む。 「ごめんね。一瞬だけ、章悟のこと考えた」 「っ……」 「見えてるのかなって。花火も、……オレのことも」 「……」  握ったままの手に痛いくらいの力が込められるのを甘んじて受け止めながら、俯いた颯真を真っ直ぐに見つめた。 「……だったら、来年も来ないとなって」 「……なんで?」 「……ちゃんと。颯真と仲良くやってるよって」 「……つかさ?」 「……もう、……もう、ホントに。オレは大丈夫になったよって。……ちゃんと、立ってるよって。 オレは今、颯真といて幸せだよって」 「つかさ……」  あの頃、絶望するほど遠かった空に打ち上げられた花火は、あんなにも大きく──近くに見えたから。  いろんな人が決まり文句みたいに励ましに使ってた、空から見守ってくれてるよ、なんていう胡散臭い綺麗事を、ようやく理解(実感)した気がしたんだ。  あの日のことは、たぶん一生忘れられないけど。それでも、今のこの瞬間を大切に、精一杯生きていることは嘘じゃないから。
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