僕を見下ろす花火の熱さを

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「しまったねぇ」 「出遅れたかぁ……」  花火大会にかこつけてのプチ旅行を提案した翌日。  二人してスマホでホテルを検索しまくった結果は、まさかの0件ヒットの連続だった。たぶん、随分前から日程が決まっていただろう花火大会を目指して、事前に予約されていたのだと思う。  でもまさか2週間前に予約でいっぱいになってるだなんて、考えてもみなかった。 「まぁ、結構規模も大きいみたいだし、仕方ない、かなぁ?」  残念だねぇ、と少ししょんぼりした声が呟いて、残念がる唇がへの字に下がる。 「ギリギリまで見てみようか、キャンセル待ちみたいな感じで」 「今更キャンセルする人なんているかなぁ?」  淋しそうな苦笑を浮かべた司に、確かに望みは薄そうだけど、とぼやく。  検索条件にしていた金額の上限を取り払えば数件はヒットしたが、一人一泊30000円だなんて払えるわけがない。  溜め息を吐いて顔をあげたら、司がそっと笑っているのに気づいて首を傾げた。 「どしたの?」 「んーん。マメだなぁと思っただけ」 「マメかなぁ?」 「花火だけ見れたらそれでいいよ?」 「うん、まぁそうなんだけどね……」  電車に乗れさえすれば日帰り圏内なのだから、無理に宿泊先を確保する必要もない。  ──のは分かっているのだけれど。  形だけとはいえ結婚したのだから、それはつまり初めての旅行イコール新婚旅行なわけで。夏祭りや花火大会に乗っかれたら、忘れられない新婚旅行になるんじゃないかなんて、今時女子でも考えなさそうな乙女全開の気持ち悪いプランだと自覚もしているけれど。せっかくなんだしの一言に尽きる訳で、お金をかけられない分は何かに乗っかってでもと思うのだ。  逆に言えば新婚旅行にかこつけて豪遊の手もありはするが、しがない学生な上に、もう無茶なバイトの仕方はしないと約束してしまった。
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