僕を見下ろす花火の熱さを

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「……花火なんか、この2、3年見てない気がするなぁ……」  悶々とスマホ片手に考え込んでいたところに聞こえてきた、どこか遠い記憶を手繰るようなしんみりした声にハッとして顔をあげる。 「……颯真と見れるの、楽しみ」  照れた目元が潤んでいるのは、考えすぎではなさそうだ。  そっと傍へ抱き寄せて、頭をそっと撫でて笑って見せる。 「そだね。オレも楽しみ」  涙目で照れ臭そうに笑う司の額に音を立ててキスをして、ふにゃ、と下がった眉にもキスをする。 「だいじょうぶ。楽しいよ、きっと。屋台だってあるし」 「ん……今度はね、焼きそばとか食べたい……」 「そう? ……じゃあ半分こして、お好み焼きも食べよう」 「ん」  涙目のまま笑った司に、お楽しみを散々並べた後。 「だいじょうぶ。笑って司。なんも悪くないし、なんも哀しくないよ」 「っ、ん」  ずびっと鼻を啜ってニコと笑った司の、目尻から零れた雫を舐めとって見なかったことにしたら。 「──さ、じゃあ新婚旅行はまたの機会ってことでオレも諦めるから、待ち合わせとか決めようか」 「っ!? ちょっと待って、新婚旅行って何!?」  わざとらしいほど明るく笑って言えば、唐突な言葉に目を白黒させて慌てる司が可愛い。 「え? だって結婚して初めての旅行なら新婚旅行でしょ?」 「~~っ」  ん? と笑って見つめ返した顔は、さっきまでの哀しい顔と違って、照れて真っ赤で──ぐりぐりしたくなるくらい文句なしに可愛い。  口をパクパクさせて何か言おうとして結局は何も言わずにふぃっと顔を逸らした司を、それ以上からかうことはせずにそっと頭を撫でた。  *****
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